綺麗な庭

わたしの救いの箱庭です。

国道沿い

いつまでも暮れない太陽と、いつになっても読み終わらない物語と、いくら飲んでも減らないコーヒー。 雨が降っていた。誰かが呟いた。「粘土の空」奏でるように他にも何か言っていたような気がするが、雨の音にかき消されてしまっていた。 小綺麗なカフェで…

黒い春

覚醒の時期、道端の小さな花も、風に凪ぐカーテンも、暖かな斜陽も、たちまち真っ黒に染まった。 黒い洋服を着て、残酷な春の日を闊歩する。ひらひらと黒い花びらが舞う。 そこにあるべき正しさと、失われたこころ。日向と日陰の境。白と黒。愛と無。 綱渡り…

最後に海を見た日2

簡単なことを忘れていて、息が詰まる。 寒い寒い夜明けの中、秘密の話をしよう。 水平線。群青。乱反射。 鏡のようにふたり手を合わせ、白い息を吐く。確かに僕は存在して、海を見ている。 歩こうか?潜ろうか?泳ごうか?溺れてみようか? 君となら、なんと…

植物のない世界

正解のないこの物語の中で、僕たちはどうやって幸せになればいいんだろう。

春ゾンビ

冬を過ぎても死に切れなかった可哀想な元人間。 彼らは永遠に春の東京を彷徨い続ける。

絵画

あまり天気の良くない午前中、老婆はたくさんの花をリヤカーに積んで街へ降りる。遠くの山には日光が降り注いでいる。 途中で一羽のうさぎが囁いた。 「花を運び、幸せを買う。幸せを売り、幸せを買う。」 しばらく行くと、頭上の渡り鳥が言った。 「遠くへ…

交わる

輪郭が収束していく。 リビングルームの、天井と壁の間。 視線は一点を見つめている。 淡白で、極めて三次元的な空間。 僕は何処へゆけば良いのだろうか。 狭い部屋をあてもなく彷徨う。 途方も無い砂漠。旅人と挨拶を交わす。 そうしている間に 僕の、誰か…

人々は箱の中

途方も無い丘。 幼い頃に感じた、予感と期待を孕み腹のように膨らんだ丘。

ピアノに擬態する娼婦

ある娼婦の話。 艶やかな黒髪の彼女は娼館の窓から世界を見ていた。(海が近いが、見えやしない。) 彼女にとって娼婦でいることは、存在の確証であり、生きているということだった。 しかしあるとき彼女は、毎日毎日自分がすり減り、惨めになっていることに気…

サナトリウム(英: sanatorium)は、長期的な療養を必要とする人のための療養所。 結核治療のため、日当たりや空気など環境の良い高原や海浜に建てられることが多い。

日記

今日は一度朝早くに目覚めた。生まれて初めて感じた、病院の光のような日光をぼんやり見つめていた記憶がある。 僕はそこでなぜかスプーンを思い浮かべた。搔きまぜるのだ。 いつの間にかもう一度寝ていたようで、日光はさっきとは違う、霧雨のような安心感…

古い未来の記憶

馴染み深い曲を背景に僕は家族らしき人間と戯れている。 木がまばらに生えている公園。遊具は木製で、数が少ない。 やけに雲のない、演出されたような空。 冬めいた秋。水彩絵の具で薄く誤魔化したような視界。 全てが絶好のコンディション。 幸せそうに笑っ…

望郷

訪れたことのない故郷へ帰る。 生きていない時間を慈しむ。 知らない記憶が蘇る。

信仰

僕は宗教のことはよくわからないんだけど、信仰の対象が目の前でみるみる朽ち果てていったら教徒はどうなるんだろう。 今まで自分の唯一の光で、希望で、柱で、救いだった対象が情けなく失われて行く。冷たい息。 教徒はどうするのだろう? 僕はどうしたらい…

祈り

神様なんて信じている人は馬鹿だ。 馬鹿な人たちは、寂しいから一人で手を合わせる。きっと冷たい手をしてる。だから手を熱心に擦る。じゃあ僕も、なんて思って、自分で馬鹿だなあと思いながら手を合わせる。そうしていないと、寂しいし、手が冷たい。すると…