綺麗な庭

僕の救いの箱庭です。

しあわせ

幸せが手のひらから零れ落ちる。

僕は焦らないように、慎重に息をする。

強がって強がって何処かで一人で死を迎えるけど、墓標を建てる誰かはいない。どこにもいない。

「どこかへ逃げないと。」

「どこへ?」

「出来るだけ遠くへ。」

「醜い。」

「そうとも、だから綺麗なナイフを買ったんだ。」

「君には何も無いんだろ?」

「失ったんだ。」

「彼女はとても綺麗だね。」

「...」

「応答せよ。応答せよ。...」

 

アラスカの花畑で仰向けに寝転び、咳き込む。

曇り空から僅かに陽が差し込み、針葉樹林を焼き尽くす。

笑顔で君が走ってくる気がした。

懐かしい、どうしようもなく心地良い風が吹いている。

 

「僕はおかしくなってしまった。」

「病に侵されている。」

「君が君じゃなくなる。どうして...」

「救いようの無い世界だから。」

「そのたび僕はどんどん醜くなって、いつか誰かを殺してしまうかもしれない。」

「殺したらいい。」

「間抜けなピエロさ。」

「違いない。こりゃ傑作だ!」

「呼び方なんてどうでもいいはずなんだけど。そもそも彼女なんてどうでもいいはずなんだけど。」

「本当に醜い。」

「...」

 

君が僕を忘れても、君が幸せを手にしても、君が泣いていても、僕はそんなこと知る由もなく、アラスカで絵を描いている。

 

「彼女の絵は描かないって決めたんだ。」

「そうかい、お幸せに。」

「最低の人間だ。筆を持つ資格もない。」

「醜い醜いエゴイズム。君はまだ何かを期待している。」

「救い。救い。」

「煙草は吸わないの?」

「やめたんだ。」

「誰のために?」

「綺麗な絵が描けそうだ。」

「白紙じゃないか。」

「涙で描いてる。」

「くだらない。」

「一人になりたくて。」

 

誰か僕を赦してください。

どうしようもない世界だから

いいよ、君を失っても。

いいよ、君が誰かに奪われても。

いいよ、君が誰かを許しても。

いいよ、君の目が見えなくなっても。

いいよ、君が君じゃなくなっても。

いいよ、僕を忘れても。

君が幸せになれるなら、いいよ。

6月の女王

雨の月、彼女は女王になる。

1つ歩みを進め、民は跪く。

好き放題嵐を起こし、さめざめと泣く。

君には自由も、束縛も似合わない。

いつまでもそこで凛としていてくれればいい。視線の先から僕が消えても、好き放題嵐を起こし、さめざめと泣いてくれ。

我が君、季節の変わり目にはお体に気をつけ、鏡を見るのを忘れないで。

私は....私は7月の大鷲です。

発祥

患った。意味になってくれてありがとう。

決して煩わしいものなんかではなく、空いた穴を埋めてくれる。時間や理論や思考はすっ飛ばして、6号線も2丁目も赤い信号も一蹴してしまう。

果てしなく加速して、ひっそりと停滞して、幸せになろうじゃないか。今だったら掴めるんじゃないか。

患ってる時はそんな悪い夢を見るね。

 

引鉄

とうとう呪いが脳みその中枢にまで到達した。

様々な感情がフラッシュバックする。

君の笑顔がまた見たい。

もうあの頃の目では見つめてくれないんだね。そりゃそうか。いつの間にか薄いカーテンが引かれていたみたい。いや、ずっと僕たちの間にはそういうものがあったのかもしれない。

どうにもならないカーテン。天使の羽。

そう言えば君はよくカーテンを閉めてと言ったね。

あの雨の日にも、雪の日にも、寒い夜にも、戻れない。

戻れやしないんだ。

 

ペルセポネ

結局君は僕が好きと言った髪型にしていた。

結局僕の前髪は君に言われた通りに分けられている。

 

なんなんだろう。なんなんだよ。

変わらない馬の尻尾。それは僕が望んだものだった。望んだものを手にしていた。

そしてそれを失った。失ってなお、忘れることができないでいる。

僕の帰るべき家はどこなんだろう。

たくさんの人の列の中で僕は今か今かと先頭にたどり着くのを待っている。体には枷がまとわりつき、さながら奴隷のような出で立ち。それでもいい、それでもいい。

 

もう煙草は吸わないし、結局僕は前髪を下ろしている。

もう遅いんだ。

春ゾンビ

冬を過ぎても死に切れなかった可哀想な元人間。

彼らは永遠に春の東京を彷徨い続ける。

 

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