綺麗な庭

僕の救いの箱庭です。

ジュブナイル

どこか遠くの極めてアジア的な空間で催される祭り事。幼い私はぽわぽわとした気分でした。何処からか潮の匂いが、なにかを焼く匂いが。

夜に煌々と照るライトの背後には影、亡霊。高揚した気分の人々はそれに気づかないふりをしています。亡霊が歌うと、私はとっても懐かしい気分になります。軽い熱に浮かされたように、ぼーっとしてしまうのです。

今この瞬間にこのお祭りがぱっと消えて無くなってもおかしくはないのです。そんな不安を人々は抱きながら亡霊の歌を聴いています。そんな時私は「きっともう元いた場所には帰れないな。」と、こう思うのです。それほどまでにこの歌は、異世界的で、呪術的で、郷愁的で、刹那的で、絶望的なのです。

ほら、きづくともうそこはさっきまでいたところではなくなっている。

ハーバリウムって言うんだって

気が狂ってしまいそうなんだ。持っていない物を探して随分経つ。海岸に打ち上げられた一匹の僕。不幸の前触れ。

角砂糖の中で生きてる。甘い甘い鳥籠。ここにいるときは安心できるんだ。馬鹿になって、なにも考えないから。間延びした声で夢を語る。あくびとともに溢れる涙。それは意思に反している。

人間は欠陥生物。欠けているものを補うために生きる。間違いを正す。正解を探す。君と目があった時に間違わないように、生きる。

みんな残酷な話が好き。相対的に安心感を得る。

僕は死んだことがないからわからない。パズルのピースを無くしたのかどうか、君はわかる?知りたい。

綺譚

くすんだ景色。きっと標高の高い場所にあるんだ。何かを予感させ、絶望させ、安堵させる、無機質とも言える風が吹く。風は何も言わないし、僕らは何も聞けない。

白い柵に囲われた庭。二人分くらいの幅の入り口はちゃちなアーチで飾られている。

玄関まで続く石畳。至る所にあるプランター。灰色の太陽に照らされて育った植物、花々。

白いワンピース、チェック柄のテーブルクロス、僕のTシャツ。これは洗濯物。

雨風に晒された聖母像

小屋を挟んで向こうの裏庭は草木が生い茂っている。縫うように続く石畳。相対的に閉鎖的な世界。

木製のドアを開け、裏口から入ると、きみが笑顔で言う。

「おかえり。」

ただいま。

「裏庭のルクリア、じきに枯れるわ。」

かなしいね。

きみはいつも僕を待っている。そしてこの庭と、家を守っている。時にコーヒーを淹れ、時にドライフラワーを作る。

僕は好きな本を読んで、タバコを吸って、絵を描いて、ギターを弾いて、標本を眺め、酒を飲み、花を摘んで、寝る。

来るのかもわからない明日に潜るような、沈むような。

どこかで汽笛が鳴る。ああここだ。僕の帰る場所。

振り返ったら消えてしまいそうな胎動。

生まれて死んで。意味は全てここに。ここにあるから。綺麗な花とか、白いヘラジカだって友達さ。小指くらいの鯨も水槽にいるし、屋根裏にはフクロウもいる。図鑑は全部揃っているし、讃美歌だって歌えばいい。

明日きっと僕は僕でいられるんだろう。僕は僕でしかないから。それがまるでスプーンのような朝でも。

モラトリアムアクアリウム

ぶくぶく。たっぷりと満たされた適温の水。餌を食べて満腹。ぐっすり寝る。

ぶくぶくぶく。

タバコを深く吸って大きくため息をつく。可視化されたため息。

丸い目をした金魚に問う。「お前は今何者だ。名前は?好きな食べ物は?明日は何する予定?」

金魚は口をパクパクさせて何かを伝えようとする。それは僕の耳には届かなかった。世界が違いすぎてしまった。

「幸せかい?」

「いいえ。」とはっきり聞こえた。

その返答に妙に納得してしまい、うなだれた。そうすることしかできなかった。

僕はそうすることしかできないんだ。ままならない。なにもかも。

此の期に及んで満たされることを求めている?許されることを求めている?

もうどこにもいけない。大きな淀んだ水槽。

 

何者

君は画家で、あなたは香水を作っている。彼女は遠い国で花屋をやっていて、さっきすれ違った男は吸血鬼で、たくさんの警察が目を光らせている。水族館では、消防士、音楽家、ドイツ人のプログラマー、軍人、薬局の店長、地底人、テレビの関係者。フランケンシュタイン。パン屋の息子。賑わい。ざわざわ。

皆名前がある。マリリン・モンローニコラ・テスラジュール・ヴェルヌ。ルドン。グスタフ・クリムト

世界が変わるといいね。赤が緑になって、黒が白になって、100が0になって、朝が夜になって、君は川魚になって、蝶はビスケットになって、上が下になって、本は肉塊になって、海はほこりになって、彼女の綺麗な髪は憎しみになって、僕はとっても美しい庭になる。

虚を泳ぐ

一人の魔女の家を僕は知っている。

魔女に尋ねる。

「愛は?」

「なくした。殺しちゃった。」

当たり前のように言うものだから、僕は悲しくなった。

真っ赤な花、y軸の方程式。

僕は魔女にただ笑って欲しかった。ピエロにもなった。上手に笑おうとした。

いつかもう一度魔女に尋ねようと思う。

「愛は?」

魔女はきっと前を向いてこう言う。

「ないよ。」

lily

誰かが叫んでいる。聞こえる?

雨が降っている。梅雨だから。雨粒の断末魔。たくさんの綺麗を見て、酔って、吐いて。

君は綺麗になるよ。雨粒のような瞳に、黒い髪。

雨の中のリリィ。聞こえる?