綺麗な庭

僕の救いの箱庭です。

空っぽの独白

悲しいと感じた。純粋な感情。

映画を見て涙を流した。君のように何かを持っている人間は生き、私は死んだ。

真っ逆さまさ。幸せなら手を、どうかこんな僕の手をとって救ってはくれないだろうか。君は生き、私は死んだ。黒い寒すぎるプールに落ちて死んだ。死ぬのは悲しい。でも涙はそうは言っていなかった。偽物の羊ととりとめのない会話と。開けっ放しの窓からは何が見える?君に渡すものも持っていなくて、もう誰にも届かないんだって。貝殻のなかで涙を流す。さながらそこは潤った瞼の中。覚醒しよう。また慈悲を。明らかな慈愛を。

環世界

僕に見えている景色がある。浴室は浴室たりえる光の反射を見せ、鏡には僕が見える。

娼婦に見えている景色がある。人間の性と罪、自分が歩くべき歩幅が見える。

男に見えている世界がある。右脳から生まれた彫刻、檻を開ける鍵が見える。

君には何が見える?そこからは何が見える?どんな色?どんな形?

決して還ることはない問い。端と端が繋がって、決して終わることのない問いが僕らを包む。僕にはそれが見える。

もう一つ、僕にしか見えない風景がある。それがこの庭。

深海

間違いのない世界に咲いた花、当然のように僕を殺した。この世界では、僕だけが間違い続けてしまう。ピアノは寂しいと嘆き、僕はそれに頷く。

思ったより僕は冷静なようで、まずいコーヒーをすすりながら呼吸をする。吸って、吐くだけ。祝福の夜はとうに昔のことで、僕はそれだけでは生き返れない。

遠い昔から花は咲き続けていて、僕は置いてけぼりをくらった。心臓は動かない。造花。

それでも続く。

 

 

相対

そんな時にばかり夢を見る。いつもそうやって過ちを犯す。1と0と0と1を比べてしまう。

夢は着実に現実を蝕んで行く。チェロの音が鳴る霧だらけの森に巣食う怪物のように蝕んで行く。

長くて急な坂道を登って下って、ブレーキ。体温、肌、声。

曖昧な夜には煙草がなくちゃ。

旋律と背景とともに

くどいくらいのコーヒーの味。砂糖は多めで。憂鬱な雨と気だるげな空と、報われることはないアスファルト

どこか遠くの知らない場所、そこにいる誰かは僕の帰りを待ち望んでいる。僕自身もそこへ行くことを強く望んでいる。

神話的な風景。

昨日、夢を、見た。

博物の館

「剥製」という「物質」。生きていた過去を君は覚えている?

作り物の目玉で、どこか恨めしげに私たちを見ている。

思ったより大きな肋骨で、生きようと動き続けていた皮膚で、私たちを裁く瞬間をガラス1枚向こうで待ち続けている。

君たちが生きていたこと、忘れないよ。そして、その綺麗な角や、尖った牙で、僕を裁いてください。

「神さま」

迷路のようなこの場所で迷い続ける。剥製になるまで。

国道沿い

いつまでも暮れない太陽と、いつになっても読み終わらない物語と、いくら飲んでも減らないコーヒー。

 

雨が降っていた。誰かが呟いた。「粘土の空」奏でるように他にも何か言っていたような気がするが、雨の音にかき消されてしまっていた。

小綺麗なカフェでは、あまりぱっとしないBGMが流れていた。客の喧騒は、僕の人生に関係しなさそうな周波数で僕の鼓膜を震わせた。あまりぱっとしない僕は、一番小さいサイズのコーヒーをちびちび飲みながら、本を読んでいた。

 

ようやく日は暮れ、本を読みきり、コーヒーを飲み終わった。カフェを出た時には雨は止み、かつて鼠色だった空はどこかせいせいしたと言った風な顔を見せていた。さっきまでとは違う風が吹き、さっきまでとは違う音が聞こえる。僕が三時間と二十数分活字と触れ合っている間に、世界がそっくり姿を変えてしまっていた。実際、何かが移り変わるというのはそういうものなのだ。僕は殆ど呆然としながらバイクのアクセルをひねり、前進し、加速した。