おとぎばなし
白痴の少年はひとつだけ嘘をついた。
ねえ、観覧車に乗ってもいいでしょ?
母は僕の手を強く引っ張る。観覧車は僕と関係ない人を乗せ、僕と関係ないエネルギーで回転し続ける。滲む目に、観覧車はもうただの光の粒にしか映らなかった。
でも僕はこっそりカルーセルの馬を1匹連れ帰った。だから大丈夫。
いつか本当の話をしようね。
君が錠剤を口に放り込み、笑う。
その時僕は、神さまはいないと知った。
鏡に写る自分がひどく醜く見えて、逃げるように部屋を出た。
ここではないところを求めてひたすらに歩く。バレリーナはフィクションだし、音楽なんて全部嘘だった。
頭と体が重たい。
気づくと僕は遊園地にいた。馬の足りないカルーセルがある遊園地。
また間違えた。こんなはずじゃなかった。
観覧車もカルーセルも、何食わぬ顔で回っている。
回っている。
目の前で幼い僕が母に手を引かれている。
母は笑っている。
僕を白痴と呼ばなかった君は錠剤を飲み込み、笑っている。
どこか遠くの丘では大きな風車が回っている。
回転を、止めなきゃ。
目が回って立っているのもやっと。
吐きそうなのを堪える。
遠近はでたらめにうねる。
「ようこそ!」とピエロがしきりに繰り返す。
君が、カルーセルの馬の、手を引っ張って、バレリーナの目に映る、自分はひどく醜く、錠剤を飲み込み、本当の話を、神さまはいないと、気づくと僕は...