樹海航海記
ノルディック柄のセーターのような気分になる。或いは、時化の樹海を航海するような、そんな気分になる。
いずれも私がコーヒーを一口すすった時の気分だ。
__一度、荒れた樹海で溺れたことがある。風は強く、波は高かった。大きな揺れで体勢を崩し、そのまま船から落ちてしまった。代わりに甲板にはイタチが一匹打ち上げられていた。
あえなく樹海の深いところまで沈んでしまった私は草木に揉まれて明後日の方向へ流されてしまった。
なんとかブナの木のうろに逃げ込んだ時には雷も鳴り始めていた。うろにはフクロウの子供が3羽おり、雷の光を大きな黒い目で見つめていた。
そこで一晩明かしたときにはもう樹海は落ち着きを取り戻していた。陽光を受け一斉に光合成する葉たち、煌めく水滴、土の匂い。
少し離れたところで大きなカモシカが辺りを見回している。頭上ではリスが枝を飛び回り、水滴をぱたぱた落とす。その音に驚き耳を立てるウサギ。
樹海は嵐を許したように見えた。
3羽のフクロウはいなくなっていた。狭いうろで小さく伸びをすると、僕はどうしようもなくコーヒーが飲みたいことに気づいた。