国道沿い
いつまでも暮れない太陽と、いつになっても読み終わらない物語と、いくら飲んでも減らないコーヒー。
雨が降っていた。誰かが呟いた。「粘土の空」奏でるように他にも何か言っていたような気がするが、雨の音にかき消されてしまっていた。
小綺麗なカフェでは、あまりぱっとしないBGMが流れていた。客の喧騒は、僕の人生に関係しなさそうな周波数で僕の鼓膜を震わせた。あまりぱっとしない僕は、一番小さいサイズのコーヒーをちびちび飲みながら、本を読んでいた。
ようやく日は暮れ、本を読みきり、コーヒーを飲み終わった。カフェを出た時には雨は止み、かつて鼠色だった空はどこかせいせいしたと言った風な顔を見せていた。さっきまでとは違う風が吹き、さっきまでとは違う音が聞こえる。僕が三時間と二十数分活字と触れ合っている間に、世界がそっくり姿を変えてしまっていた。実際、何かが移り変わるというのはそういうものなのだ。僕は殆ど呆然としながらバイクのアクセルをひねり、前進し、加速した。