綺麗な庭

僕の救いの箱庭です。

ペルセポネ

結局君は僕が好きと言った髪型にしていた。 結局僕の前髪は君に言われた通りに分けられている。 なんなんだろう。なんなんだよ。 変わらない馬の尻尾。それは僕が望んだものだった。望んだものを手にしていた。 そしてそれを失った。失ってなお、忘れること…

春ゾンビ

冬を過ぎても死に切れなかった可哀想な元人間。 彼らは永遠に春の東京を彷徨い続ける。

絵画

あまり天気の良くない午前中、老婆はたくさんの花をリヤカーに積んで街へ降りる。遠くの山には日光が降り注いでいる。 途中で一羽のうさぎが囁いた。 「花を運び、幸せを買う。幸せを売り、幸せを買う。」 しばらく行くと、頭上の渡り鳥が言った。 「遠くへ…

交わる

輪郭が収束していく。 リビングルームの、天井と壁の間。 視線は一点を見つめている。 淡白で、極めて三次元的な空間。 僕は何処へゆけば良いのだろうか。 狭い部屋をあてもなく彷徨う。 途方も無い砂漠。旅人と挨拶を交わす。 そうしている間に 僕の、誰か…

笑い声

彼女の笑い声が、君の笑い声に似ていた。 小動物、マウス、白いラット。花束。 彼女の笑い声を聞くたびに君を思い出してしまったら、どうしてくれる? 君はどうして幸せになるの? 噛みちぎって、赤い肉を貪り喰う。骨まで砕いて、全部胃の中に。 生と死。 …

寄生

また夢を見た。 君は拒絶しなかった。 世界には、僕ら2人しか存在しない。 いっそ2人で溶けてなくなりたかった。 いつこの亡霊は消えるのだろうか。耳元で幸せの台詞を囁く。 脳味噌に君が寄生しているようだ。 廃病院をいつまでも君と彷徨っていた。 あの夢…

この上ない絶望。

存在の証明。 僕は今、いい夢を見ている。 君の小さな小さな肩を抱く。そこに残るのは一対の白い石像。 「凍結させてしまおう。」聖者は言った。 いつまでも開かない花火。秋になっても、冬になってもずっと。 幸せの種類。剥製にしてしまおう。 市民は1人に…

人々は箱の中

途方も無い丘。 幼い頃に感じた、予感と期待を孕み腹のように膨らんだ丘。

今日ばかりは____もっともここにいる時はきまってそうなのだが___ネガティヴな気持ちで綴らせてほしい。(自分への戒めとして。) 愛すべき花のような人間。ある意味では、それは花に例えるには生き生きし過ぎているくらい、綺麗な花。 花は他を選ばすに生きて…

ルビー

追って来る豹。僕は蝶を追いかける。 今まで蝶を素手で捕まえられた試しがないけど、なんとかやってみよう。 追いかけても追われても僕は一応前進してると思う。 でもそれが本当は挟み撃ちだったら? やめようこの話は。今日みたいな涼しい夏の夜には相応し…

春の走り書き

以下の文章は、通俗的に「春」と呼ばれている時代に、この庭の主人によって書かれた走り書きである。机の奥の方でとても良い状態で発見された。 庭の主人はなぜ書いたのか覚えていないそうだ。 自分が人より劣ってると思うわけで、それは他人が僕の知らない…

遠雷

遠くで鳴いた雷が、その鋭い風貌とは裏腹に、兵隊の足音のような響きを轟かす。 それは人々に恐怖を与えかねない。 気をつけて。

不可触

無機質な街の中で、君の心臓は強く脈を打った。 もう夢は朧げになって、僕は別の細胞に作り変えられてゆく。 青リンゴはまだまだ食べられない。

鉛と降雨、ベッドの上で夢を

ベッドの中で君は遠くへ行ったことを悔いた。視界は鉛でコーティングされたように数段階暗い。雨の日なのかもしれない。 嬉しくて笑うと覚醒に呼び戻された。 頭を抱え、あるはずのない四角い部屋に意識を戻そうとする。 そんな日に君と会ってしまったのが間…

綺想

気づいたら僕の前の方に君がいて、必然的に、否が応でも視界に入る。 世間知らずで謙虚そうな後頭部を僕はじっと見てしまう。 芸術作品のように綺麗な髪の毛。無垢で、有機的な美。 量産的な美を記号的に纏う民衆の中で、君は間違いなく1番美しい。 つい溜め…

ピアノに擬態する娼婦

ある娼婦の話。 艶やかな黒髪の彼女は娼館の窓から世界を見ていた。(海が近いが、見えやしない。) 彼女にとって娼婦でいることは、存在の確証であり、生きているということだった。 しかしあるとき彼女は、毎日毎日自分がすり減り、惨めになっていることに気…

サナトリウム(英: sanatorium)は、長期的な療養を必要とする人のための療養所。 結核治療のため、日当たりや空気など環境の良い高原や海浜に建てられることが多い。

good bye night

消すんだよ、煙草を。アスファルトにぐりぐり押しつけて。 道路の薄汚い白線の内側。嫌になる。 君の顔も見ずに煙草を消す。 君には意味が多すぎる。正解なのか夜なのか、書き記すのか、あるいは騎士のように闘うのか。(ペンは剣よりも。) そう言えばそうだ…

中毒

あの感覚が忘れられない。 全てが満たされて、体温が少し上がる。 帰り道、体は驚くほど身軽だった。 溢れそうなほどの幸せはこの世のどんな気体より軽かった。 ぷつり 体が、心が、鉛のようだよ。 浮力を忘却した大きな大きな鯨。いつまでもどこまでも沈ん…

日記

今日は一度朝早くに目覚めた。生まれて初めて感じた、病院の光のような日光をぼんやり見つめていた記憶がある。 僕はそこでなぜかスプーンを思い浮かべた。搔きまぜるのだ。 いつの間にかもう一度寝ていたようで、日光はさっきとは違う、霧雨のような安心感…

特別な意味を持って生まれた液体が、不機嫌な僕の喉を通過した。

ひとさじのミルクコーヒー。 最近何を飲んでも不味く感じてしまう。 後味、後を引く不幸。追って来る。 馬鹿らしい。本当に。 吐き気がするんだ。寝る前だっていうのに。 真っ白な部屋にドライフラワー、寒い森で火を灯す、ざらついた視界に君を入れる。精一…

左右非対称

君が今、幸せらしい。 僕は丁度その反対側にいるらしい。 アシンメトリー。いいじゃないかそれで。 君が笑うと涙が出る。不思議な機能に感心した。 僕が全然眠れないってことは、君はぐっすり寝ているんだろうね。 いいじゃないかそれで。

古い未来の記憶

馴染み深い曲を背景に僕は家族らしき人間と戯れている。 木がまばらに生えている公園。遊具は木製で、数が少ない。 やけに雲のない、演出されたような空。 冬めいた秋。水彩絵の具で薄く誤魔化したような視界。 全てが絶好のコンディション。 幸せそうに笑っ…

初夏の塔は塔であり続ける

初夏の緑、ガラスで屈折した木漏れ日、本物より美しい造花、君の笑う声、幸せのフレーバーを詰めて花瓶をジントニックで満たす。 興奮で視界がきゅるきゅる動いた。 塔のてっぺんで炭が赤く輝いている。 清潔な蛇と純真なキスをした。 口から雲が立ち込め、…

温度

満たされていないことによる焦燥。 囁くような声が僕の心を換気してくれる。ような気がする。民衆が歓喜する。 ふと心の温度を気にする。 肋骨の奥は悲しいことに冷え切ってしまっていた。 君の温度を思い出す。僕の温度を思い出す。その時だけ一瞬、ぽっ、…

ガラス片

君とすれ違ったこと、君と言葉を交わしたこと、君の目が綺麗だと思ったこと、そんなものは君の前では無意味だ。子供が拾って集める小さなガラス片のように。ガラス片は子供に集められるために生まれて来たわけじゃない。 僕に君を愛す資格はない。 君が僕を…

歯車

誰の視界にも僕はいなくて、自分の神様を追い続けている。偶像崇拝。 僕が歌を歌おうが、泣こうが、笑おうが、君にはなんの関係もないものね。 一言二言楽しげに言葉を交わすが、君が何を考えているかわからない。 「僕なんか見えていないんじゃないか。」 …

一から空気を

自分で煙草を作る。 庭の花を摘んで、丁寧にドライフラワーにする。 金平糖を細かく砕く。 真っ白な紙でそれをころころ包んで、野生のライターを捕まえて火をつける。 「しゅぼ」 「ろくでもない人間になってしまったなあ。」 「それでも許されていたいなあ…

「この気休めの箱庭で暮らす気分はどう?あなたの言うカルト宗教と何が違うの?現実は一切ここには介入していないわ。こんな古臭い土地にいつまでもいられないわ。」 「君は誰なんだ?」 僕の完璧な庭が、均衡が、手応えのないものになっている。 メーデー。…

君はくすくす笑う

「幸せってなあに?」 「人それぞれさ、ほら、今日も北のほうで弦楽器を弾いている人たちがいるよ。」 「それは幸せなこと?」 「とてもとても、幸せなことさ。」 「映画みたいね。」 「鐘を鳴らせば僕は許される。初夏の朝、冬の斜陽、花束を病院の廊下に落…